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2017-03-29

空堀哲学café『くままでのおさらい』振り返り+参加者感想

空堀哲学café『くままでのおさらい』の振り返りが届きました。絵本を読んだ方向けの振り返りになっているので、あらすじなどを知る前に絵本を読みたいという方はご注意ください。

2時間ではとても収まりきらない程の問いが見つかる絵本だったようで、「4回くらいにわけて話し合うのが正しい」とは進行役の感想です。

振り返りと参加者の方の感想はつづきからどうぞ。


振り返り

 今回は、最初に私が持って行った絵本を皆さんで読んだ後、おおよそ皆さんの関心が一致するところで話し合うことにしました。話し合うことのできたことは、幾重にも問いが重なっていく中のほんの一部だったと思います。一番話が集中した「こいびと」、その傍らで気になった「食べる」のイメージと「うさぎ」について振り返ってみようと思います。

・「こいびと」

 物語に登場する「こいびと」はどんな存在なのか。最初はまさに「好きな人」というストレートな捉え方で考えていました。後半には「自分の理想的な姿」という考え方が出てきました。後半に出てきた捉え方は、かなり比喩的で象徴的な存在として「こいびと」を理解したものですが、二つの捉え方には共通点もあったと思います。

 主人公の「おんなのこ」は様々な動物を食べ、食べたその動物になります。そして、その動物のもつ特徴を生かして「こいびと」の手助けをしたり、贈り物をしたりします。最後「くま」になった「おんなのこ」は、それまでの動物と同じように「こいびと」を食べます。
 この物語の展開について、「なぜ『おんなのこ』は『こいびと』にならなかったのか?」という疑問を投げかけてみました。「おんなのこ」は自分が食べた動物に変わっていくのですが、最後の「こいびと」だけは、彼を食べた後も「おんなのこ」は「くま」のままです。どうして「おんなのこ」は「こいびと」を食べても「こいびと」にならないのか。

 この問いを「こいびと=好きな人」という捉え方で考えてみると、この物語は「好きな人を自分のものにしたい『おんなのこ』の物語」になりました。彼女はたくさんの動物に姿を変えつつ「こいびと」のためになることをします。そして、とうとう最後には「こいびと」を自分のものにしようと彼を食べるのですが、「こいびと」は「くま」になった「おんなのこ」のお腹に収まっただけでした。「こいびと=好きな人」という前提で「おんなのこ」が「こいびと」にならなかったことを考えると、そこには「自分と他人は違う」ということが見えてきます。様々に姿を変えてきた「おんなのこ」ですが、「こいびと=自分とは違うもう一人の人間」にはなれなかったというわけです。私とあの人の間には決定的な線引きがある。その線を超えて私があの人と接することも、その線がなくなって私とあの人が溶け合うこともない。どれほど私があの人のことを好きだとしても。

 こうして「こいびと=好きな人」と考えてみたところたどり着いたのは、「人間って結局は孤独な生き物」ということでした。「くま」になった「おんなのこ」が森に帰るシーンにもの寂しさを感じた参加者の方もいました。ただ、ここでいう「孤独」は「あらゆる人間関係から切り離されてたった一人になった」という意味では理解しませんでした。むしろ、「他の誰かとつながっていかずにはいられない」という気持ちを起こさせる「孤独」、「人間同士がつながっていくときのモチベーション」としての「孤独」でした。私とあの人の間には決定的な断絶がある。だからこそ、私はあの人とつながりたいと願うことがあり、どうすればつながることができるかと思い悩むこともあるのです。

 さて、もうひとつの捉え方、「こいびと=自分の理想的な姿」という前提で「なぜ『おんなのこ』は『こいびと』にならなかったのか?」を考えると、今度は「『おんなのこ』が理想を思い浮かべながら様々な経験をする物語」になりました。この場合、「おんなのこ」が様々な動物に姿を変えているところは、経験を積んでいく過程ということになります。そして、「こいびと」にならなかったということは、理想の自分になることがなかったということになります。「理想の自分」と「現実の自分」の間に線が引かれていた、と言ってもいいでしょうか。

 これだけだと「努力したけど報われない」という結果のような気がしますが、今こうして話し合ったことを振り返ってみると別の可能性もあるように思います。話し合いの中で、「おんなのこ」はどんな動物を食べるかを自分で決めているわけではないということに気がつきました。もし「おんなのこ」が、なりたい動物になるためにその動物を食べていたとしたら、様々な動物になっていくところは「理想に向けた努力」として理解できるでしょう。ところが、「おんなのこ」にそうした意図は見えず、どんな動物になるかは偶然に左右されているようです。では様々な動物に変わっていく「おんなのこ」の経験と、「こいびと=自分の理想的なすがた」はどんな関係だということになるでしょうか。単に目標に向かって一直線に進んでいくよりは複雑な生き方の模様があるように思えます。

 「こいびと=好きな人」にしても「こいびと=自分の理想的な姿」にしても、「こいびと」は何か決定的な「断絶」なり「線引き」の向こう側にある存在だというのが今回の話し合いでの理解でした。「断絶」や「線引き」によってお互いに区別されているからこそ、あの人とつながりたいと思ったり、この人とはつながりたくないと思ったりする。「断絶」や「線引き」の向こう側にあるから、あれを手に入れたかったり、これに手が届かなかったりする。同じ絵と同じ文を読んでいるのにまるで違うものを見てしまうということも、この「断絶」ないし「線引き」の現れの一つなのかもしれません。

・「食べる」と「リアル」

 「おんなのこ」が動物に変わっていく場面では二つの理解がありました。一つは、「おんなのこ」が別の動物になる前に一旦人間に戻っているという理解。もう一つは、「おんなのこ」は人間に戻ることなく次々と別の動物になっているという理解。私は二つ目の方の理解をしていました。この違いの出どころになっているのは、動物を食べるシーンの捉え方のようです。

 「おんなのこ」が動物を食べる場面では、動物が皿の上にのせられていて横にはナイフとフォークが置いてあります。これが人間の食事スタイルだということに注目した人は、一つ目の理解をしていました。私は「くじら」や「しか」がそのままの姿で、つまり「食品」として加工されることなく皿にのっていることから、これが人間の食事スタイルを表すものだとは捉えませんでした。多数派だったのは一つ目の理解の方です。

 話し合いの中で「食べる」が絡む場合、多くは実際に私たちが動物を食べるシーンを想定した話し合いになりました。口に入れて咀嚼するということが念頭にあるくらい「リアル」な食事風景が話題になる傾向があったのです。絵本には「くじら」がまるごと皿にのった絵があり、「おんなのこ」が「くじら」を一頭まるごと食べるとは考えられないのですが、それでも話し合いは「鯨肉」を食べる話になりました。

 確かに「食べる」ということには何か「生々しさ」があって、その場面については何となく「リアル」に考えたくなるかもしれません。一方で「こいびと」は比喩として理解されていたので、「食べる」と「こいびと」の考え方の間には何か思考パターンの違いがあったように思えます。実は辻褄があっているのかもしれませんが。

・「うさぎ」

 「くま」が「こいびと」を食べる場面のインパクトが強いので、「どこが一番気になりましたか?」と聞いたときにはやはりそのシーンが選ばれました。ところが、もう一つ選ばれたシーンもあって、それが「おんなのこ」が「うさぎ」になったところでした。

 「うさぎ」になったシーンでは、それまでの動物と違い、「こいびと」のために何かをするのではなく「おんなのこ」はただ涙を流します。自分が「こいびと」のためにできることがないということに気づき、それがきっかけで「くま」になったときに「こいびと」を食べた。これが話し合いの中で出た一つの解釈です。ただ、この解釈で納得できたかというと、皆さんそうでもなかったようです。「うさぎ」の「涙」は何かもっと謎めいたもののようで、最後まで、どういう意味があるのか気になると言われていました。

 この「うさぎ」、今春に出版される井上さんの次作『うさぎまでのおさらい』で主人公になります。他の動物とは違う独特な魅力があった「うさぎ」なので、どのようなお話になっているか気になりますね。


参加者感想

 この絵本はよむひとが経験や年令に応じて感じ入ることができるのではないか、と思う。
 とにかく今の自分の心境に合致してるのだ。家族のために鯨であろうとなんでも、やった。でも私の思いは私が願うようには家族に伝わらず、私の望みも叶えられず、結局は私は私の生活を送っている。
 こいびと、家族を本当に食べたのではなく、家族への伝わらぬ思いを抱きつつ生きていくこと。私の幸せは私のいるべき場所でさまざまな経験や思いをいつか忘れて私が私のことだけを思い生きること。というような感想です。有難うございました。

(庸)
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tag : 哲学カフェ振り返り

プロフィール

のら

Author:のら
猫鳴堂の堂守猫(雑種)。青い。

空堀哲学café
・日時:
 毎月第四日曜日
 16:00~18:00
・場所:
 道勝café
 大阪市中央区谷町6-4-20


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